~中央公民館館長と,J-PARCセンター長が講演~
晴天に恵まれた令和4年4月23日(土),当法人主催の「砂防林講演会」が,村松山虚空蔵堂の和室(信徒会館)で行われ,事前に申し込んでいた約30名が集まりました。
当法人は,地域の様々な魅力(里山や広大な農地など豊かな自然,真崎城址や真崎古墳群などの旧跡,村松大神宮や村松山虚空蔵堂などの神社仏閣,阿漕ヶ公園などの大公園,J-PARC(大強度陽子加速器)施設などの最先端科学施設)があふれる村松地区を,様々な人たちとの「つながり」を大切にしながら守り・育てていくことを目的としていますが,この日の講演会も,そのために「改めて地域を知る」取組の一つとして企画しました。
今回の事業は二部構成。第一部の講演会では,この地区を強風から守ってきた「砂防林」の歴史について,東海村中央公民館の大内伸二館長から,また,東海村が世界に誇る実験施設J-PARCの研究内容等について,J-PARCセンターの小林 隆センター長から,それぞれ分かりやすく興味深いお話をいただきました。
続く第二部は,地域の魅力を確認する現地踏査。約1時間30分にわたり,村松山虚空蔵堂,村松晴嵐の碑,村松海岸砂防林造成の碑,八間道路(スカシユリ自生地・保護地),村松海岸,村松大神宮を順次巡りました。
村松山虚空蔵堂については,「東海村ボランティアガイドの会」会長の三浦輝男様と,会員の佐藤留三郎様から,楽しく分かりやすいご説明をいただき,参加者からは「へ~」「知らなかった」「なるほど!」といった声が上がっていました。また,その他のポイントについては,中央公民館の大内館長や,その場所についてよく知る会員が,説明を行ってくれました。
2つの講演会と,会話を楽しみながらの現地踏査を通して,豊かな自然環境の中に,「古いもの」と「新しいもの」が同居し,それらが互いの関係性を大切にしながら「響き合っている」ことを実感した参加者たち…。
井坂文明理事長は,結びの挨拶で,「地域の素晴らしさを改めて実感いただけたと思います。この地域が持つ『可能性』を,さらに多くの人に『知ってもらうこと』『活用してもらうこと』を通じて大きく広げていきたいです。今後も,このような事業を企画するので,その際はぜひ参加をお願いします」などと呼びかけました。
※会場をお貸しくださった村松山虚空蔵堂の原 淑行様を始め皆様,ありがとうございました!
■第1部の講演会の内容をご紹介します!(講演内容や資料から抜粋)
①村松海岸砂防林造成の歴史
(講師:東海村中央公民館館長 大内伸二 様)
・「風」「砂丘」「松」は,古来,村の景色だった。村松コミセン近くに残る「七里松原」という小字名からも分かるように,多くの松があった。
・水戸藩第9代藩主の徳川斉昭公が,藩内の風光明媚な場所を「水戸八景」に選定したが,東海村の村松海岸も「村松晴嵐」として選定された(それほど美しい景色が広がっていた)。
・徳川斉昭公は,東海村の景色を,次のように歌に詠んでいる。
真砂地に 雪の波かと みるまでに 塩霧はれて 吹く嵐かな
(意味:限りなく続く清楚な白砂の中に,点々と小高く盛り上がった砂丘。その先には青い海が広がり,海霧がかかっている。にわかに一体が晴れわたってくると,瞬く間に嵐のような風が吹いてくる)
・日本の代表的な松は「黒松」と「赤松」だが,海岸近くには黒松が多い。黒松は耐潮性が高く,塩分を含んだ風雨にも強い。黒松は葉先が硬くて鋭く,手で触れると痛い。赤松は黒松ほど硬くない。
・松が過酷な環境である砂地で成長できるの
は,「菌類」が関係しているから。「エンドファイト」と呼ばれる内生菌と,外生菌根菌とが栄養のやり取りをすることで,松は大きく成長できる。
・東海村では,古来,強い海風(北東風)により,砂や塩が吹き付け,住民は大変な苦労をしていた。
・大正7年(1918年),旧村松村村長が,飛砂や潮風による農作物被害を何とかしようと,茨城県知事に砂防工事を願い出,同年,「村松村国有林」が国の「海岸砂防試験地」として,全国5ヶ所の試験地の一つとして選定された。
・植林を指導したのは,河田 杰(まさる)博士であり,博士は想像以上の強風と飛砂に悩みながらも,人口砂丘を作って地形を整理しながら,今では「茨城方式」と呼ばれる苗木の植え付け手法を編み出した。この茨城式造林法は,国内の他の地域の模範となり,全国に広がった。
・地元民により「愛林組合」が組織され,組合の献身的な活動により,これまで黒松林が維持されてきた。
・松枯れや開発により,「白砂青松」の風景は失われてしまった。どんなに土木技術が発達しても,即座に「白砂青松」の海岸を造成することはできない。「松林」「砂浜」という貴重な財産を取り戻すことを,村民が一丸となり,本気で考える時期に来ている。
②大強度陽子加速器施設J-PARCで探る宇宙と物質のなぞ
(講師:J-PARCセンターセンター長 小林 隆 様)
・J-PARCは,周長1.6㎞のコースに,100兆個の陽子を約1.5秒で20万回周回させ,光速の99.95%まで加速させ,それを様々な物質に当てて飛び出す2次粒子を観測することで実験を行う施設。
・物質・生命科学研究や,素粒子・原子核物理研究を行うほか,タンパク質の解析,リチウムイオン電池の高性能化,高性能タイヤの開発などにも活かされている。
・2020年にJAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星「リュウグウ」の試料の分析にも,J-PARCが貢献した。
・2010年から力を入れているのは「ニュートリノ実験」(東海to神岡(T2K)実験)。これは,「ニュートリノ」と「反ニュートリノ」の性質の違いを探ることで,「宇宙になぜ物質があるのか?」「我々は,なぜ今ここに存在しているのか?」を探ろうというもの。
・宇宙誕生当初は,物質と反物質(粒子と反粒子)は,同じ数だけ作られたはず。2つの粒子は,出会うと消えて無くなる性質があるので,私やあなたは存在しないはず! だが,存在している! それはなぜだろうか? 「ニュートリノ」の観測を通して,「宇宙になぜ物質があるのか」「我々は,なぜ今ここに存在しているのか」の謎を解きたい!
・もしかしたら,例えば,粒子と反粒子は「寿命」が違うなどの「性質の違い」があるのかもしれない。今はまだ未発見の「ニュートリノと反ニュートリノの性質の違い」を,J-PARCで調べよう?
・東海村のJ-PARCから,直線距離で295㎞離れた岐阜県飛騨市の実験施設「スーパーカミオカンデ」まで,ニュートリノビーム(反ニュートリノビーム)を送り,性質の違いを観測し続けている。
・現在までの実験結果で,「95%の確率で『ニュートリノ』と『反ニュートリノ』の性質が異なるようだ」ということは分かった。しかし,世界的に認められるためには,さらに実験を繰り返す必要がある。
・現在,スーパーカミオカンデの能力を大幅に上回る性能を持つ「ハイパーカミオカンデ」が,2027年の稼働を目指して建設中。完成すれば,ノーベル賞級の発見が期待できる!
・実験を通して,毎秒「数百兆個」の「ニュートリノ」を発生させており,ニュートリノは,いわば「東海村の特産品」ともいえるもの。今後,東海村との連携をさらに深めていきたいし,協力して,新たな特産品の開発などができれば嬉しい。
・J-PARCは,宇宙や物質のひみつを探ることができる施設。地域や学校などで,説明会や勉強会をどんどんやって行きたいので,遠慮なく声をかけてほしい。
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